第二 被害弁償や時効経過の有無が量刑に影響しない原判決は憲法第14条に違反する
1.本事案の一審判決において、量刑判断の大きな理由として次の2項目が提示されていた。
① 被害総額は1億円を優に超えており、しかもこれらの被害者らに対しては全く被害弁償がなされていない。
② 死体の陰茎を切り取った上、全裸のまま山中に遺棄したという甚だ残忍かつ冷酷なものである。
2.原審において被告人は、右①に関しては事実誤認であって、少なくとも山根夫妻に対して総額6624万円余の弁償が済んでいる上、家賃相当額(月額50万円としても、今では11年間として6600万円になる)の利益を勘案すると、相当額の弁償は終わっていると主張した。
そして②に関しても、死体遺棄に付いては訴追されていない上(すでに時効が成立していた)、事実関係の審理もなされていない事実をもって量刑判断するのは不当であると主張した。
3.これに対して原判決は ①被害弁償について、
「本件で被害を被った者たちに対し積極的に慰謝弁償の措置を講じた形跡が無い」
と判示して被告人の主張を退けている。
相手に経済的な損失を与えたとの理由で処罰するに際して、その損失の大部分が弁償されているかどうかが量刑に影響を与えないとは理不尽といわざるを得ない。
積極的に弁償したか、渋々行ったかにさほどの差異があるとは思えない。
被告人が現時点で換金できる全財産を処分して6600万円を超える弁償をしたのを含めて、山根清美・知英子夫妻が1億数千万円に上る経済的損失を回復していることは厳然たる事実である。
これが量刑になんらの影響をも及ぼさぬとすれば、被害の弁償をしてもしなくても同じだということになり、法の下の平等の原則に反する。
4.原判決はさらに ②死体損壊と遺棄については
「原判決が公訴提起されていない余罪を犯罪事実として認定し、処罰しているものでないことはその判文から明白である」
として一審の量刑は正当であると判示した。
その一方で
「身体の一部を切除し杉林の中に放置し腐乱するに任せたという殺害後の状況を見ても、甚だ残忍、陰惨であって、非情、非道な犯行といわざるを得ない」
と述べて量刑判断に加味している。死体損壊・遺棄行為が処罰の対象とされていることは明らかだ。
本事案は事件発生とされた時点より起訴までに5年以上を要したために、遺棄・損壊については公訴時効が到来していた。