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上告趣意書(本人)3

第三 検察側主張と異なる事実認定をして有罪判決を導くのは憲法第31条に違反する

 1.刑事裁判とは、検察の主張する犯罪事実が合理的な疑いを入れる余地なく、証拠によって明らかにされているか否かを、裁判官が判断する作業である。

 検察が主張もせず、したがって立証活動もされていない事実について、裁判官が勝手に推論を重ねて犯罪シナリオを創作することは許されない。

 それにもかかわらず本事案では、弁護側の反証によって破綻した検察側主張に代わって、全く異なった犯罪事実が裁判官によって認定されたのである。

 検察側冒頭陳述によって示された犯罪事実と、原判決の事実認定との相違点の内、主なものを次に列挙する。

  (1) 預金通帳、銀行印等の入手経路

 冒頭陳述によれば

 「被告人は(中略)同月23、4日頃被害者佐藤方を訪れ、その資金を貸してくれるよう依頼して話し合ったが、その際隙を見て被害者佐藤の鞄から、現金、実印、銀行届け印、定期預金証書などの入ったセカンドバッグを窃取した」

というのに対して、裁判所の認定は

 「印鑑類等の入手経緯につき、被告人の供述も含め全証拠によるも、被告人が佐藤の死に関係してこれらの印鑑類を入手したとする以外に、なんら特別な事情、例外的事態の存在が合理的に窺われない」

と判示している。

  (2) 被告人が福岡へ行った理由

 冒頭陳述によれば

 「被害者佐藤は(中略)予定にしたがって同月24日頃、福岡市に着いたが、その直後セカンドバッグの無いことに気付き被告人に電話をかけ、これを直ぐにもってくるよう被告人に申し向けた。」

というのに対し、裁判所の認定は

 「同月24日、佐藤が福岡に滞在していることを知り、同日、被告人も同地に向けて出発した」

と判示して、被告人が自らの意思で佐藤を追って行ったように認定している。

 右(1)のセカンドバッグ入手経緯認定の文意からしても、少なくとも冒頭陳述の主張を否定していることは明らかだ。

  (3) 被告人が福岡へ出発した期日

 冒頭陳述によれば

 「被告人は同日(7月24日のこと・注)晩の飛行機で福岡へ赴き、同人が投宿していた(中略)414号室を訪れて被害者佐藤と会った」

というのに対して裁判所の判断は

 「被告人が九州へ行った日を7月24日とするにはなお合理的疑いが残るというべきであるから、原判決はこの点に関し事実を誤認した疑いがあるというべきである」

と判示している。 

  (4) 殺害犯行時刻

 冒頭陳述によれば

 「被告人は同月24日午後8時頃から翌25日午前8時30分頃までの間に(中略)同人を殺害した」

というのに対して裁判所の判断は

 「本件犯行の日を7月24日または25日とした原判決の認定は一部修正を免れないことになる」

と判示するものの、具体的な犯行時刻を示さない。しかしながら右(3)の判示のごとく、被告人が福岡へ行った期日を7月25日だという以上は、冒頭陳述による犯行時刻には被告人は福岡に到着していないのだから、検察側主張を否定していることは明らかである。

  (5) 犯行に至る状況

 冒頭陳述によれば全く主張されていないにもかかわらず、裁判所は 

 「本件犯行は少なくとも被告人の不渡りに端を発した両者の財産的、感情的対立が平行線をたどり、行き着くところまで行き着いた末に、事態を一挙に解決すべく、被告人により一方的に敢行されたものである」

と判示して、唐突に新たな犯行シナリオを創作している。

  (6) 犯行動機

 冒頭陳述によれば 

 「被害者佐藤から、実印などの入ったセカンドバッグを返せと強く要求されたことから同人と口論をしたあげく、同人に対し、殺意を抱くに至り」

というのに対して裁判所の判断は

 「佐藤殺害の犯行に至る動機、経緯は必ずしも明らかでない」

と判示している。右(1)のセカンドバッグ入手の認定の論旨から行って、このバッグの取り合いが動機になりえない以上、裁判所が検察側主張を否定していることは明らかである。

  (7)犯行態様

 冒頭陳述によれば

 「同人と口論をしたあげく、同人に対し殺意を抱くに至り、鈍器でその頭部を数回強打し(中略)殺害した」

と述べて、当時室内に存在したとされる同種の灰皿を証拠提出している以上、本件殺害は喧嘩口論中の反抗であることを示唆している。

 これに対して裁判所の判断は

 「被告人が佐藤に対して加えた攻撃は、両者の喧嘩闘争中になされたようなものではなく、佐藤の隙を襲って加えられた一方的なものであったと強く窺われる」

 「(加害方法は)きわめて強力かつ執拗であったことが推認され(中略)同人は、下を向いていたときかあるいはうつ伏せになっていた状態か、さもなければ背後から強打されていると思われ」

と判示して、検察側の主張を明確に否定している。

 

 以上の通り、直接に犯罪行為に関わる重要事項に限っても、検察側の主張はほぼ完全に否定された。裁判所が新たに認定した犯行事件は、検察側が冒頭で提示した事件とは別物になっているのである。

 

 2.検察の主張は冒頭陳述によって明らかにされるべきことが法で規定されている。

 そしてこの冒頭陳述の目的は、裁判所に対しては心証を取る対象を明らかにすることにあり、被告人に対しては、防御の対象を具体的に明らかにして、防御体制を整えさせることである。

 検察が冒頭陳述で主張しなかった事実については、公判で争われていないのだから、当然ながら何の立証もなされていない。したがって被告人も反論・反証活動を行っていない。

 被告人は冒頭陳述で述べられた検察側の主張が不自然・不合理であって、合理的な疑いが残ることを立証すればよいのであって、本事案では十分にその目的を果たしたと考えている。

 それにもかかわらず、崩壊した検察の主張に代わって、裁判所が、全く争われていない事実認定を行うとしたら、これは被告人に弁解・防御の機会を与えなかったことになる。

 

 3.殊に右(4)の犯行時刻については、検察の主張は7月24日の夜から25日の朝までの反抗であると明確にされていた。即ちこの事件は被告人が7月24日中に福岡へ到着していなければ成立し得ない事案だったのである。

 従って被告人のアリバイを立証するためには、同月24日中に福岡へ到着できるかどうかが裁判の重要な争点だった。

 原判決は被告人の反証をほぼ認めて、検察の主張に対するアリバイ成立を認めながら、一方で

 「被告人が福岡市に来たのが7月25日であっても、被告人が段ボール箱等を入手するためにホテルを出た時刻が若干ずれるなどの影響が生じるだけで、犯行の大筋に影響をきたすものではない」

と判示して、検察の主張と異なる犯罪事実を認定した。

 

 4.裁判では「犯行の大筋に影響をきたすものではない」かどうかの立証は何もなされていない。したがって被告人も何の弁解・反論をしていない。

 公判で主張もされなかったことが、判決段階で突然に事実認定された。

 これは被告人に弁解・防御の機会を与えずして刑罰を科すことに該当するのであって、紛れもなく憲法第31条に違反する。

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