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上告趣意書(本人)4

第四 犯行動機・犯行態様や凶器が不明のままで殺意を肯定するのは憲法第31条に違反する

 1.殺意を認定するに当たっては

   犯行時における被告人の心情(犯行動機)

   犯行に用いられた凶器の形状とその使用法(犯行態様)

   傷害の部位とその程度(犯行の結果)

の3項目を検討して、総合的に判断することが不可欠である。その内でも特に、

 犯行の動機が殺意を生じるほどに深刻なものだったかどうか、

 犯行態様が致命的結果を引き起こす程度のものであったかどうか、

が最も重要な判断要素であることは論を待たない。

 

 2.一般論として言えば、いわゆる謀殺事件であれば、それだけで殺意が存在したとの決定的な状況証拠としてよいだろう。しかし本事案については、裁判所の判断は

 「必ずしも周到な計画の下に遂行されたとまでは言えず」<一審判決97丁>

 「殺意が本件犯行現場に至ってから生じたものととらえるほかない」<同>

というのだから、謀殺事件とはみなしていない。

 してみれば判示では不明確ながら、一時の激情による行為と見るより仕方がないのだから、殺意を認定するには詳しい動機の解明が必要である。

 然るに裁判所は「佐藤殺害に至る動機、経緯は必ずしも明らかでない」と判示する。

 これではどのような理由で殺意を生じたのか何も分からない。

 右の3項目の基準のうち、犯行動機の点からは、殺意の認定は不可能というべきである。

 

 3.つぎに犯行態様の点から、殺意の認定が可能かどうかを検討する。ここでの重要なポイントは凶器使用の有無、凶器の種類形状と、その使用法、である。

 具体的には、㋐殺害の目的に合致するような凶器であるかどうか、 ㋑事前に凶器を準備していたかどうか、 ㋒攻撃方法が殺害を意図するにふさわしいやり方だったかどうか、が判断要素となる。

 そこで本事案についてみると、犯行の態様については、これを明確に認定するに足る客観的な証拠が具体的に提示されていないのである。

 端的に言えば、凶器は不明、加害方法も不明だといえる。裁判所は

「直径20センチくらいの灰皿が、犯行現場の状態から推認して、凶器としての可能性が十分認められる」<一審判決85丁>

「成傷器となりうるもので当時ホテルの客室内にあったと認められるものは、灰皿ばかりではなく、コーラ瓶なども認められ」<同>と判示している。

 しかしこれらのありふれたガラス製灰皿やコーラ瓶が、殺害に合致する凶器であるとは到底考えられない。寡聞にして被告人は、いまだかってガラス灰皿やコーラ瓶を使って殺人を目論んだという例を知らない。これらはむしろ、喧嘩の際の武器だ、というべきであって、殺人の凶器としての普遍性は全く無いのである。

 また、被告人が事前に凶器を準備していたことをうかがわせる証拠は無い。殺意は犯行場所で生じたとか、客室内にあった備品を凶器としていたこと等を示唆する判決の主旨からすると、たまたまそこにあった物を利用したのだから、この点から殺意の存在を積極的に認めることは不可能である。

 攻撃方法の点から殺意の認定は出来るだろうか。

「鈍器で同人の頭部を数回強打し(中略)殺害した」<罪となるべき事実>というのである。

 多くの殺人事件を見聞きしている警察や司法の関係者であれば知らず、一般市民にとっては、頭蓋骨の強度などは想像の範囲外である。(客室内の)ガラス灰皿やコーラ瓶を用いて後頭部を数回強打するくらいで殺害できるとは想像もつかない。殴殺する目的であれば、鉄パイプや金槌を用意せぬ限り、到底その目的を果たせぬと考えるのが常識である。

 結局は、凶器を特定せぬ限りは、攻撃方法からは殺意を認定できない。

 本事案では、犯行態様が具体的に特定されていないので、このことから殺意の存在を導き出すことは不可能である。

 

 4.最後に、犯行の結果から見て殺意を認定することの是非についてみると、(腐敗した)死体に残った受傷の痕跡から情報を得るには限りがあることを認識すべきである。たとえば、頭上へ落下物が直撃してきたときの頭蓋骨の骨折と、鉄パイプで殴られたときの骨折とを(表面組織のなくなった)死体の受傷痕跡だけから判断することはほとんど不可能である。

 殺意を認定するには、犯行の結果だけを単独に取り出して検討資料にしても不十分。犯行動機や犯行態様との関連で、その結果を総合して勘案しなければならない。

 本件変死体に残っていた頭骸骨の陥凹骨折についてみれば、この状況からだけでは、どのような経緯でこのような結果が生じたのか判断できない。そもそもこの骨折が生前に生じたものなのか、死後に生じたものなのかについてさえ明らかではないのだ(司法解剖を行った鑑定人は、生前か死後かの問いに対して明言しない<牧角三郎証言調書607丁>)。

 してみれば、本件変死体の受傷原因は、頭上からの落下物によるものか、崖下への転落によるものか、交通事故によるのか、それとも死後の運搬途中で受傷したのか、遺棄された後に鉄砲水(見聞書によれば、遺棄現場にその痕跡がある)で流された木片に当たったのかを識別できない。

 原判決は「被害者の後頭部に打撃が集中していることからして、同人が下を向いていたときか、あるいはうつ伏せになっていた状態か、さもなければ背後から強打されている。」と判示して、殺意を認定している。

 しかしこの論法は、本件変死体が殴殺されたことを前提にして、推定しているのだ。本事案が殺害死体であるのかどうかをを争っているのだから、殺害を前提とした推論は妥当でない。

 (本件の場合)傷害の部位とその程度からだけでは、殺意を認定することは不可能である。

 

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