上告趣意書(本人)7

第六 刑訴法第318条(自由心証主義)は憲法第31条(法定手続きの保証)に違反する

 1.裁判官が被告人にとって有利な証拠にはすべて目を塞ぎ、不利な証拠だけを拾い集めて犯行シナリオを構築するようなことがあれば刑事裁判の原則にもとる。

 また、客観的な証拠によらずに偏見と悪意を基にして物事を被告人に不利に解釈しようとすれば、被告人のなんでもない日常行動ですら、真犯人の状況証拠であると、いくらでもこじつけることが出来てしまう。

 刑事訴訟法318条が証拠の証明力について、このように勝手気ままな裁判官の心証形成を許しているのであれば、これは法の定める手続きによらずに刑罰を科すことに該当するのであって、絶対に許されない。

  2.本事案において裁判官が勝手な証拠解釈を行った事例は数多くあるが、すでに一審の最終意見陳述や控訴趣意書、上申書等で縷々、主張して来ているので、ここではそれらの内のいくつかを列挙するにとどめる。いずれも客観的事実に反するか、あるいは証拠によらぬ憶測、証拠を歪曲した解釈である。

 仮にも一人を処罰する結果となるのに、裁判官がこのように勝手な証拠解釈をなし得るとは驚かざるを得ない。

  

 
  (2)変死体の身長測定について

 原判決は「死体の身長を計測した結果は約152ないし153センチメートルであったが、頭皮、頭髪が失われ脚部を屈曲して腐乱し、一部白骨化した死体を計測した結果であるから、その正確性に限界があることはいうまでもなく、上記(155ないし160センチメートル)の佐藤の身長より若干低い値が出ても格別に異とするに足りない」<14丁>と判示している。

 しかしながら、これは何の証拠にもよらずに、単なる推論を展開しているに過ぎない。

 身長は骨格によって定まるのだから、身体の軟部組織の崩壊によって低く測定されることはありえない。頭皮や頭髪が失われることで、(身長測定に)どの程度の影響があるのか立証されていない。また、本件変死体の身長測定に当たって、脚部を屈曲して計測したとする証拠も無いのである。

 むしろ地上に仰向けに横たえられた死体であれば、背骨の椎間板軟骨が伸びて、平常より長い測定値になるのが常識である。たとえば、大妻女子大学人間生活科学研究所の芹沢教授によれば、普通の大学生で、朝夕の身長差は1.5~1.8センチメートルもあるという。昼間は軟骨が圧縮されて縮むために起こる。

 米国の宇宙飛行士ウィリアム・R・ポーグも次のような体験を語っている。

「そう、背丈は4~6センチも伸びましたね。これは背骨が伸びてまっすぐになったからです。脊椎骨の間の椎間板は背中が支えている重さによってわずかに伸縮します。地球上でも、この板が睡眠中に伸び、起きて歩いたり座ったりすると縮むために、大人は夜よりも朝のほうが、ホンの少し背が高いんですよ。無重力状態では背骨に重量がかからないので、椎間板は縮むことなく、背は伸びたままというわけです。」<「宇宙でトイレに入る法」集英社文庫>

 地上に横たえられた死体は背が伸びこそすれ、縮むことは無いのである。原判決の認定は経験則に反している。

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