第六 刑訴法第318条(自由心証主義)は憲法第31条(法定手続きの保証)に違反する
1.裁判官が被告人にとって有利な証拠にはすべて目を塞ぎ、不利な証拠だけを拾い集めて犯行シナリオを構築するようなことがあれば刑事裁判の原則にもとる。
また、客観的な証拠によらずに偏見と悪意を基にして物事を被告人に不利に解釈しようとすれば、被告人のなんでもない日常行動ですら、真犯人の状況証拠であると、いくらでもこじつけることが出来てしまう。
刑事訴訟法318条が証拠の証明力について、このように勝手気ままな裁判官の心証形成を許しているのであれば、これは法の定める手続きによらずに刑罰を科すことに該当するのであって、絶対に許されない。
2.本事案において裁判官が勝手な証拠解釈を行った事例は数多くあるが、すでに一審の最終意見陳述や控訴趣意書、上申書等で縷々、主張して来ているので、ここではそれらの内のいくつかを列挙するにとどめる。いずれも客観的事実に反するか、あるいは証拠によらぬ憶測、証拠を歪曲した解釈である。
仮にも一人を処罰する結果となるのに、裁判官がこのように勝手な証拠解釈をなし得るとは驚かざるを得ない。
原審では、佐藤と想定した重量56.5キログラムのダミー人形を用いて、車への積み込み実験を行った。この点に関し、
「佐藤の155ないし158センチメートルという身長(14丁で、155ないし160センチメートルだと判示しているのと齟齬する)や、解剖結果による腹部の皮下脂肪厚1.5センチメートルというデータから予想される肥満度に照らして、右重量は妥当なものである」<原判決31丁>と判示している。
しかしながら皮下脂肪厚1.5センチメートルというのは本件変死体のデータであって、佐藤が果たしてこのデータであったのかどうかは立証されていないのだから、誤った推認だといわざるを得ない。少なくとも本件変死体と佐藤とが同一であるか否か争われている本件においては妥当な推論の方法とはいえない。
佐藤の体重については、愛人であった高田笑子が次のように証言している。
「自分の体重は61キロぐらいだった。佐藤さんの体重は自分より大きかった。65、6キロぐらいあったと思う」<速記録1670丁の要旨>
また被告人は佐藤の体重を70キログラム以上あったと記憶しているが、これは捜査段階で作られた自供書<乙43号証>に
「私は佐藤さんを抱き上げて上に載せようとしたが、70キログラム以上の体重のある佐藤さんを持ち上げることがどうしても出来ず」と表現されている部分からも明らかである。
さらに、佐藤の長女・西岡ひさよは次のように供述している。
「父の人相は、身長157センチぐらい、肥満体で顔は下膨れで、死んだ喜劇役者、三波伸介にそっくりでした」<供述調書2082丁>
ちなみに、右三波伸介の体型は、昭和57年12月8日、52歳の死亡時で身長173センチメートル、体重100キログラムの肥満体である。<1991年12月5日付朝日新聞”監察医務院”>
三波伸介に比べて身長が低い点を割り引いて考えても、佐藤の体重が56.5キログラムしかなかったはずがない。原判決の認定するごとく、本件死体の推定体重が56.5キログラムであるとするなら、この死体は佐藤とは別人であることを証明している。
原判決の佐藤の体重認定は自由心証主義の乱用である。