上告趣意書(本人)13

  (8)現場の段差の存在について

 原判決は 「大塚保美の供述および死体発見当時の現場写真によると、死体のあった杉林はそこに至る平地よりも一段と低くなっていたことが窺われ、図面に描かれた『段差』という場所付近に昭和55年当時段差と表現しても不自然でないような高低差のあったことが認められる」<45丁>と判示している。

 ところがこの認定は客観的事実と証人の供述の趣旨を歪曲した、きわめて恣意的な証拠評価である。

 本件現場は三郡山の三合目に当たる位置にあり、全体がなだらかな東南傾斜のくだり勾配になっていた。従って現場の取り付け道路上から見れば、南側の杉林は、全体の流れに沿って傾斜して低くなっていることは当然である。

 当時の現場写真によれば、取り付け道路より杉林側が低くなっていることが判別できるにせよ、その高低差が流れに沿ったスロープ状のものなのか、それとも段差があったために低くなっているのかを判断することが出来ない。

 争点となっているのは、杉林と取り付け道路との間に70センチから1メートルぐらいの段差があったのかどうかであって、南側の杉林とに高低差があったかどうかではないのだ。

 被告人の供述の信用性を裏付けるために段差の存在を認定しようというのだから、まずその供述がどのようなものだったかを明確にする必要がある。図面と、同日に作成された供述書によれば

「石ころだらけの河原から1mくらいの段差のある小さな崖上の下の位置」<乙43

だと明記されている。

 この段差という表現は、崖状のはっきりした段差(を示しているの)であって、流れの傾斜にそった緩やかな勾配を意味していないことは明らかである。

 この段差について、原判決の引用する大塚保美証人はどのように表現しているかを列挙する。

「(切り立ったような高低ではなくて)傾斜面の段差ですね」

「そのまま(傾斜に沿って)流れるという状態です」

「はっきりした段々という形じゃないんですけど、いく分すり鉢状を呈したような流れですね」

「(飛び降りるような高低差ではなくて)当然歩いてくだれる地形です」<一審速記録26472648丁>

「現在の南側取り付け道路北側のスロープ状態が、当時、南側取り付け道路から死体発見現場まで、ずっと続いていく感じでした」

「スロープ状になっていたので、高低差がどのくらいかよく記憶していませんが、段々畑のように少しづつ下がっていました」

「段々畑といっても明確な段々ではなく、この現場付近が北から南の方向に、あるいは西から東の方向に流れる下り勾配で、全体が谷間になっていますので、部分によっては段があったり、平地があったりし、全体的に見るとスロープになっているということです」<原審証言>

 これらの大塚保美証言をもって、70センチから1メートルくらいの崖上に段差があったことの裏付けとなし得るだろうか。「段差と表現しても不自然でないような高低差」程度で、崖状の段差の存在したことを認定できようはずがない。

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