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上申書・1 深夜の待ち伏せ


1. 逮捕(716日)

   深夜の待ち伏せ

 1985年7月の16日に日付が変わった夜中の3時頃、私は東京渋谷の松濤の路上で突然屈強な5人の男に取り囲まれた。

 私は、近くの円山町で経営していたパブ・スナックの仕事を終えて、女性2人をそれぞれの家に送り届けるつもりで、路上駐車していた自分の車に戻ったところだった。

 「警視庁だ、ちょっと来て貰いたい」

 この時すでに両脇から2人の刑事に腕をとられていた。

 当時の私は、ある民事訴訟で争っている相手方から、不審な点があるので警察に調べてもらっている、などと言って脅かされていた。

 警察に関わることなど、このくらいしか心あたりがなかったので、この騒ぎはそのことに違いないと私は考えた。

 私は、

 「わかったが、ちょっと待ってくれ」

と言って刑事の腕をふりほどき、2人の女性に

 「警察だと言っている。たいしたことじゃないと思うが、送っていけなくなったから、タクシーで帰ってくれ」

と言って、ちょうど通りかかったタクシーを停め、2人を乗り込ませた。

 刑事たちは私を覆面パトカーの後部座席に押し込み、両側に刑事が挟んで座る。

 それっきり、誰も一言も喋らぬまま車は寝静まった渋谷の街を抜けていった。

 私はてっきり渋谷警察署に連行されるものとばかり思っていたのに、車はその横を通過してゆく。

 六本木交差点の手前でUターンして、車は麻布警察署の駐車場に入っていった。

 予定の行動らしく、助手席に座っていた刑事が黙ったまま一人で所内に入ってゆき、5分ほどして戻ってきた。

 「やっぱり直行は無理のようだ。ここに一部屋確保してもらったから、待機して様子をみよう」と言う。

 私は両脇の刑事に腕をとられたままで車から押し出された。

 そろそろ朝の気配が漂っているというのに、六本木の街は車の列が続いて活気を帯びている。

 すっかり血の気を失って動転している私が、両腕をとられて警察署に引きずられていく姿など、人の群れの誰もが気にも止めていないようだ。

 麻布署の二階、取り調べ用の狭い部屋に私と5人の刑事が入り込んだあと、一人がやっと私に情況を説明してくれた。

 どうやら彼がこのチームリーダーらしい。丸顔で薄くなった髪が目立つ大柄の刑事で、腹の底から絞るような声で言う。

 「自分達は警視庁捜査第四課の刑事だ。君をまっすぐに本部に連れて行くつもりだったが、どうやらマスコミに嗅ぎつけられたらしくて、本部は混乱しているようだから、しばらくここで様子をみることにした」

 私は生きた心地もしなくなってしまった。

 一体何が起こったというのだろう。

 5人の刑事が真夜中にやってきたことだけでも大げさだと思っているのに、なんでマスコミが騒がなければならないんだ。

 重大事件の容疑者が逮捕された時の、あのテレビ報道が思わず眼に浮かぶ。

 カメラのフラッシュを浴びながら怯えたように立ちすくむ姿、また上着などで顔を覆いながら逃げるように捜査官に引き立てられてゆく姿、自分がどうしてそんな立場にされてしまったのかと、不安な気持ちばかりが拡がってゆく。

 

 

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