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上申書・2 逮捕状

   逮捕状

 「納得がいかないって顔しているけれども、君は、なぜマスコミが追いかけているのかわかっているのだろう?」

 リーダーの丸顔刑事が言うのに対して、私は、はっきりと「理由はわからない」と答えた。

 「胸に手を当てて、ジックリと考えてみろよ」

 苦笑しながら顔を見合わせている刑事達の態度をみて、これは中途半端にしておかずに、正確な情況を知っておく必要があると、私は感じた。

 「一体、どういう理由で私は捕まったのか、これからどうするつもりなのかを教えてほしい。任意の事情聴取だというのなら、こんな状態ではそれに応ずる気持ちになれないので、すぐに帰りたい」

 丸顔刑事は、他の刑事と眼を見合わせて頷き合った後に、ポケットから取り出した紙片を私に手渡しながら言った。

 「お前さんがそこまで言うんじゃ仕方がない。手に取ってよく読んでくれよ。今からは参考人ということじゃなくて、被疑者だということになるから覚悟してくれ」

 私は紙片を開いて眺める。予想していたとおり係争中の宇田川ビルに関する所有権登記について、公正証書原本不実記載容疑などが記載された逮捕状だった。

 宇田川ビルは、元来私の仕事のパートナーだった佐藤松雄の所有物だったが、借地権の更新をめぐって5年まえから土地の権利者と争っている状態のままで、私が代表者となっている法人がビルを買い取っていた。

 その後、譲渡担保を原因として私の名義に移転登記してあったことについて、土地の権利者である台湾人が、借地権の無断譲渡は不当であるとして、建物収去立ち退きの訴えを裁判所に起こしていたのだ。

 その台湾人は、その訴訟の中で、所有権移転登記は書類偽造の疑いがあるので警察に調査を依頼していると申し立てていた。

 逮捕状に記載されているのは、まさしくこの虚偽登記のことに違いない。

 相手の言い分にピッタリと合致していたので、私はあきれてしまった。

 なんだ、やはり警察が単に民事事件に介入してきただけのことじゃないか。

 不審な点があったにせよ、私の弁解を一度も聞かぬままで、このように強制的に逮捕までするとは、ずいぶん酷いことをする。

 しかも、この民事訴訟は、裁判所の勧告に従って、1週間前の7月9日に和解となっていて、問題はすべて片づいていたのだ。

 きっと警察は、その訴訟が和解になったことも知らずに強引な捜査に着手したのだろう。

 こう考えた私は、この逮捕状執行が腹立たしく、警察のやり方に対してただ反発心ばかりが湧いてきた。

 「よく読んだか。ここにはいろいろ細かく書いてあるが、こんなことはどうでもいい。俺たちが知りたいことはたったひとつ、佐藤をどう始末したのかっていうことだけだ。お前さんのハートに聞く。佐藤をどこへやった。」

 丸顔刑事がこのように言っても、私にはピンとこなかった。

 重大な容疑で捕まったのだという認識は、まだ持っていなかった。

 「何か弁解することはあるか。あれば聞いてやろう」

と言う刑事の顔を睨みつけたままで、私は黙っていた。

 民事紛争の一方の肩をもって、このように理不尽な逮捕までしたのかと思うと、怒りと憎しみのために、口を開く気にはならなかったのだ。

 

 

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