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上申書・4 裸体検査

   裸体検査

 車は、警視庁本部の建物をグルリと回り込んで北側から地下駐車場に入り、私は、地下玄関前で車から降ろされた。

 すぐ裏にあるエレベーターで3階に向かう。

 留置場区域との境界には鉄格子の電動扉がついていて、刑事が声をかけると内側から係員がこれを開く。

 その扉の脇に受付カウンターがあって数人の係官が座っていた。

 すでに私が到着することは連絡がついていたとみえて、私はすぐ刑事の手を離れ、看守に指示されてもう一か所の電動扉から奥に入った。

 そこに10畳敷きほどの小部屋があり、そこで私は身体検査を受けた。

 麻布署で逮捕状を執行された時に、ズボンのベルトやネクタイは取り上げられ、財布・手帳・ハンカチなどの所持品すべても刑事に渡していたから、ここではすぐに裸体検査が始まった。

 身長・体重の測定から始めて、身体中のアザや傷痕などの特徴が点検されて記録される。

 全裸になって係官の前に立ち、足裏から陰茎の裏側、尻の穴まで丁寧にチェックされるのだ。

 いわれのない嫌疑を受けて不当に逮捕されたと思っている私だから、この検査に刑事でも立ち会うというのなら、多分強硬に抗議したことだろうが、留置規則に従って事務的に作業している看守に文句を言ってみてもはじまらない。

 係官は私だけを特別扱いで虐待して恥をかかせようとしているわけではなく、留置場に収容される者が誰でも最初にこの裸体検査を受けることになっているのだろう。

 しかし、わかってはいても、この検査は私にとっては大変な屈辱だった。

 着ているものをすべて脱げと命令される。

 シャツ・ズボンを脱ぎ、ちょっと躊躇した後に思い切ってパンツをはずすのだが、一枚脱ぐたびに、つい先刻までの平穏で幸福だった市民生活が剥ぎ取られてゆき、監獄におとし入れられた悲しみが実感として認識させられてゆく。

 檻の中に収容された以上は、自由だ人権だプライバシーだなどというしゃらくさい主張は一切通用しない、という権力からの強烈な宣告を下されたように思える。

 私は裸体検査の手続きがどんどん進んでゆくのをみながら、これからの私の生活は警察の完全な管理下に置かれた、絶対的な隷属関係にあることを覚らされていた。

 取り上げられた靴の代わりに灰色のサンダルが差し出される。

 これを素足に履いて一歩踏み出した時から、私の奴隷生活が本当に始まった。

 続いて隣の部屋に移されて写真撮影となる。

 着席して首が固定されたままで椅子が左右に回転する仕組みになっているので、アッという間に正面と左右斜め前からの顔写真が写された。

 これが直ちに引き伸ばされてマスコミ各社に配付され、今日の夕刊の紙面を飾ることになるのかと、何かで読んだ警察と記者クラブの癒着関係の本の内容などを思い出しながら、絶望的に考える。

 写真撮影後、私は看守に連れられて、収容される留置場に向かった。

 本部の留置場エリア内には5か所の留置場があり、2つずつの風呂場、食堂のほか医務室や乾燥室などの設備のある大規模なものだ。

 私が収容されたのは第四留置場(四留と呼んでいた)である。

 ノックすると扉の覗き窓が開き、こちらの顔と身分を確認した上で内側から看守が錠を開ける。

 銀行の大金庫のように頑丈で重そうなステンレス製の扉には、驚くほど大きな錠前がついていて、私が入るとすぐに閉じられた。

 その錠の閉まる時に発するビキィーンと響く鋭い音が、いよいよ檻に拘禁されたのだという悲しさを強烈に印象づける。

 四留の中央には一段高くなった看守台があり、これを中心にして扇型に囲むように六つに区切られた房が並んでいる。

 朝早くからやってきた新入りの私を興味深げに眺めている収容者の眼が、各部屋の金網の向こうで光っていた。

 私が指示されて入室したのは、出入口から数えて二つ目の部屋、第5室である。

 オレンジ系の色をしたカーペットが敷かれた8畳ほどの広さの部屋には、先住者が2人いて、すでに今日私が入ってくることは看守から聞かされていたらしい。

 警視庁本部の留置場といえば、どんな凶悪犯が収容されているのかと、なかば不安でいたのだが、この2人が礼儀正しくてまじめな人柄に思えたので私はホッとした。

 彼らが私の逮捕容疑を尋ねてくるのに答えるかたちで、私は必死に弁解した。

 殺人容疑なのだが別件逮捕されたこと、まったくの濡れ衣であることを私が強調すると、2人とも真剣になって聞いてくれる。

 逮捕されて以来惨めな思いばかりだったので、この時に2人に慰められたことは嬉しかった。

 

 

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