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上申書・9 弱みにつけこむ

   取調技術①弱みにつけこむ

 容疑者の捜査、取り調べとはいっても、しょせんは頑強に閉じている被疑者の口を、いかにしてこじ開けて犯行を自白させるか、という技術の問題にすぎない。

 警察が強制捜査に着手して被疑者を代用監獄に隔離収容するのは、多くの場合、真犯人だという証拠があるからではない。

 証拠がないからこそ逮捕して、自白という直接証拠を入手するために被疑者を責めあげるのである。 

 権力によって強制的に身柄を押さえ、一般市民の眼の届かぬところへ隔離する。

 この密室は、自白を得る目的にそって最も能率よく作られていて、通常、この部屋では拷問があろうが被疑者を虐待しようが欺そうが、自白を得るために何が行われたかを外部には知られずに済むシステムとなっている。

 もちろん刑事訴訟法などには被疑者の人権に配慮した立派な条文があり、公正な手続きを定めてはいるが、法律などは行政の都合によっていかようにも拡大解釈が可能だということをよく承知している取調官は、条文など一切気にしない。

 実際にこの密室での取り調べの状況が違法であったとして争われた刑事裁判の例は無数にあるが、事実関係を知っているのは被疑者本人と数名の取調官という当事者同士しかいない。

 そして、この場合に被疑者側の訴えが裁判官によって認められる可能性など万に一つもないだろうことは、同じ官僚仲間としての取調官がいちばんよく承知している。

 取調官が口をつぐんでいる限りは、この密室で行われたことは、すべて秘密として消えてしまうのだ。

 第三者に直ちに判ってしまうような痕跡さえ残さなければ、ここでは何をしようと何を言おうと一切が許されるという安心感もあって、取調官が被疑者をいじめ抜く手口はどんどんエスカレートしていくのも当然だった。

 特に私の事件の場合、物証や目撃者がいないどころか、果して犯罪事実そのものが存在するのかどうかすら不明であって、これを立件するには私の供述を得ることが不可欠だった。

 このような時こそ警察の代用監獄システムは、最も効率よく機能する。

 私は、殺人容疑はおろか財産処分関連についても主な部分の犯罪容疑は否認していたから、当初から私と取り調べ刑事との対立は激烈なものとなった。

 一般社会からは完全に遮断された密室の中で、私は寄ってたかって恐怖のドン底につき落とされ、来る日も来る日も犯行を自白しろと責めたてられた。

 こうした毎日の中で私は、取調官という職業は本質的にサディストでなければ勤まるまいと、何度も実感させられた。

 情報が外に洩れない密室の中で、無抵抗の被疑者を罵倒し続けているうちに、彼らの本性が目覚めていくとみえて、刑事も検事も例外なく凶暴になってゆく。

 この密室は、私の精神をズタズタに引き裂いただけでなく、取調官にとっても正常な精神状態を維持しがたい空間だったに違いない。

 刑事たちが常軌を逸して凶暴にふるまうほど、逆に私は自虐的な傾向に陥っていった。

 いつのまにかサディスティックに振る舞う相手に迎合することに快感まで覚えてしまって、取調官が勝手に作り上げた架空のシナリオの供述調書にすら署名することもあったのだ。

 この密室では、当初の私は完全に屈服させられていた。

 被疑者の精神までも取調官が自由に管理してしまうという徹底した取調技術だったが、その基本テクニックは、被疑者の弱みをつくことにある。

 私を屈服させるために取調官は、どんなにエゲツないやり方でも平気で実行した。

 逮捕直後の1~2日間の取り調べは私のウィークポイントのデータ収集が目的だったと言える。 

 刑事たちは、私を脅かしたり、なだめたり、罵ったりしながら、それに対する私の反応や弁解の内容を分析・検討して、自白強制を促すために必要な私の弱点をすっかり把握してしまった。

 元来私は、大勢に従うことを潔しとせず、独自の生き方にこだわって40数年の人生を送ってきただけに、信条としてどうしても譲れないことや、自分で大切に思っていることが多くありすぎた。

 例えばそれは家族や肉親であり、友人や知人であり、財産や仕事でもあったが、私が最も大切に思っていたのは、誠実さをもってひたむきに社会に関わっていこうとする私の人生観・姿勢だった。

 命と引換えにしても、人を欺したり裏切ったりはするまいと決心して生きてきたつもりだった。

 また、これまで私なりに充実した満足すべき人生を送ってきていたので、そのしがらみをすべて捨て去って自分の身を守るために開き直ることなど、この時の私には到底できない。

 このような私の弱みが何であるかを掌握すれば、あとはこの弱みにつけ込んで私を自由にコントロールすることが可能なのだ。

 取調官に人質をとられたのと同じような状況が私の立場であった。

 取調官は、暴力を使って私を直接的に傷つけなくても、これらの私の弱みを突いて、少しずつ崩していく様子を私に見せつけることで、私を絶望の淵に落とすことができる。

 取調官は、子煩悩な私に対して、子どもに圧力をかけると言って脅したし、それを実際にやろうとした。

 私の肉親への情愛の強さを見抜けば、母親をさらし者にしてやると脅迫しただけでなく、実際にそのことを実行した。

 私の誇り高い性格を読むと、あらゆる方法で過度の屈辱を加え、私の人格崩壊をもくろんだ。

 こうして私は、警視庁本部に勾留されていた136日間、取調技術を駆使して精神的に痛めつけられ、自白を強要され続けた。

 

 

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