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上申書・21 200名からの事情聴取

     200名からの事情聴取

 後に法廷で証言した取り調べの指揮官によれば、この事件で事情聴取した関係者は、200名にも及ぶという。

 異常な人数だと言うほかないが、この理由は、殺人事件が発生してから真犯人を求めて捜査活動がなされたのではなく、強制捜査に入ってから殺人事件があったことを立証しようという、逆の手順だったからである。

 まず、犯人と想定して私の身柄を拘束し、その後で事件の存在をつきとめようというのだから、当局は、手当たり次第に捜査の手を広げて、人海戦術で偶然性に賭けるしかない捜査を行った。

 「久しぶりで手がける本部掘り起こしの特異事件だから、所轄署の若い刑事たちにも勉強させなきゃならんし、渋谷署・東調布署と機動捜査隊からそれぞれ10人の応援が入って、総勢70人の捜査体制だ。根こそぎ捜査して、後には草も生えないほどになるぞ。覚悟しろよ」

 白石主任がこう言うとおり、捜査活動の主眼は、私と交流のあった者を片っ端から事情聴取して、殺人事件に結びつく何らかの手がかりを得ることにある。

 なにしろ、いつ、どこで、どんなふうにして殺害されたのかは、私を締め上げて自白させるか、あるいは友人・知人たちの供述の中から何かのヒントを探し出さないかぎり、何も判らない。

 70名の専従捜査員が90日間フル動員されたのだから、この事件の捜査がいかに綿密に行われたかは想像がつく。

 私から押収した電話帳や住所録などを当たって、私の知人たちは次々と警視庁に呼び出されていた。

 すでに私は殺人者・詐欺師としてマスコミ報道され、社会的には広く既成事実化されてしまった後のことだから、こんな私と親しかったことが他人に知れたら都合が悪いとみて、警察から呼ばれれば何をおいても真先にやって来る。

 「さすがに友人関係は一流企業のいい地位の者ばかりだな。たびたび刑事に訪問されたんでは出世に響くものだから、最近では電話して都合を聞こうとすると相手の方から、出頭しますと叫んで、すっ飛んで来るよ」

 白石主任は、こう言って笑った。

 事情聴取の対象者の範囲はどんどん拡がっていって、何と私の30年前の中学校時代の同級生やら、高校時代の担任教師にまで及んでいく。

 私の子ども時代のエピソードを並べたてては嘲笑する取調官には、私はあきれるばかりだった。

 どう拡大解釈しても、私の子どもの頃の友人たちが佐藤殺害容疑の参考人に該当するとは思えないから、この聴取は、私の個人情報収集のためだったのだろう。

 私の性格や趣味、ものの見方、生活態度などの細かなデータを集めて、人間的な弱点を探し出して取り調べに利用しようとしたに違いない。

 そして、私の広い交流範囲の友人たちのひとりひとりに会って、直接に捜査官の口から私が殺人犯であるという先入観を植えつけてゆけば、今後は個人的に私を支援しずらくなるだろうという、当局の読みもあった。

 これまでの42年間の半生をつうじて、親友と呼べるほどの友人を何人ももっていたと私は自負していた。

 たとえばマスコミがどんなウソを報道しようが、私が無実を主張しているかぎりは、きっと私の方の言い分を信じてくれる。

 そして、私が拘禁されたあとも残った家族のためにきっと力を貸してくれるだろうと、私は確信していた。

 このことだけが密室の過酷な状況にあっても、私にとってのわずかな救いだったのだが、捜査当局は、私のこの拠り所であった人間関係を破壊する作戦を展開した。

 「いつまでも自白しないで解決を長引かせると、迷惑する人間はどんどん多くなるぞ。何度も警察に取り調べられていれば、誰だって最後にはお前を恨むようになる。結局は、お前の家族までうとまれて、生活が成り立たなくなってしまうんだ。まだ白状しないのかって言って、皆が怒り始めているのが判らないのか」

 白石のこの言葉を聞けば、当局が私と友人たちとの間を分断して私を孤立化するために、いやがらせの事情聴取を繰り返していたことは明白だ。

 逮捕される3か月ほど前に初めて知り合って、2~3度しか会ったことのない男まで警視庁に呼び出されていることを、私は、トイレに行く途中で出会って知った。

 また、過去に一度だけドライブに行ったことのある女友達まで、どのようにして探知したのか事情聴取していた。

 刑事が、このドライブ途中での細かいエピソードを知っているのは、この女性から聞く以外にはありえない。

 取り調べを受けた私の知人たちは、初めに私が殺人犯であるという当局の一方的な決めつけ情報を伝えられた後に、これを前提として話をすることになる。

 折山が真犯人だという固定観念を抱いてから語ることだから、どうしても私の過去の行動のうちの怪しげな部分や、疑わしい点ばかりが強調される。

 そして捜査官は、実際のいやがらせを行っているのは警視庁なのに、すべて迷惑の責任は私にあるかの如くに錯覚させて、巧妙に供述を誘導するから、供述は私に対する悪感情をそのまま表現したりして、私にとっては不利な供述調書が作成されることになるのだ。

 そして、何とこれを今度は私が有罪であることの情況証拠として使うのである。

 

 

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