上申書・47 捜査当局を誘導する

  12.検事のトリック(82124日)

   捜査当局を誘導する

 二度と九州の話はいたしません、と約束させられた私だったが、さりとて当局の描いている虚構シナリオを認めて、佐藤殺害容疑を容認することはしなかったから、この時点で取り調べは膠着状態に陥ってしまった。

 実際に捜査官が本格的に福岡の現地調査にとりかかってくれさえすれば、すぐにでも事実関係が確認できるのだという思いが強いので、私の主張を聞こうとしない取調官の態度が悔しくてならない。

 「しかしなあ、お前さんの作り話に、ついつりこまれてしまって、本部の多数意見を無理して抑えて、すでに一度わざわざ福岡まで大恥かきに行ってきたんだ。

 お前さんと佐藤がチャプチャプ遊んできた川を探すだけのために、貴重な経費をかけてもう一度出張捜査ができるわけがないだろう。

 どうしても調査させたいっていうんなら、佐藤を福岡の山の中へ埋めてきましたとでも言ってみろ。

 そこまで言われたら、こっちだって作り話じゃないかと疑っても一応は確認しに行かないわけにはいかん」

 こうなれば、どんな手段を講じても捜査官をもう一度福岡へ行かせようと、私は決心した。

 本気で調べさえすれば23日に佐藤が死んでなかったことなどは、絶対に証明できるし、それしか真相を解明させる方法はない。

 白石主任の言葉をヒントにして、当局が福岡を無視してはいられぬように、私は更にもう一歩、作り話の内容を進めることにした。

 7月25日には佐藤は生きていたのだという私のアリバイ主張の話から一転させて、佐藤がこの場所で死んだかも知れないという暗示を、当局に与えて福岡に注目させようと考えた。

 これが真相を解明することのできる最後のチャンスだと思うから、私も必死である。

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