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6.任意でない自白

  五、自白の任意性 (憲法38条1項、同条2項、98条2項、国際人権B規約違反)


 被告人の捜査段階における自白は、黙秘権を侵害し、強制・拷問・不当長期抑留拘禁の後になされ、任意性を欠く疑いのある自白であるから、証拠能力を有しないものであるにもかかわらず、これを証拠として採用した原判決は、憲法38条1項、同条2項、98条2項、国際人権B規約に違反し、破棄されなければならない。


  1.代用監獄の下における取調べの違法  

 被告人は、昭和60年7月16日早朝逮捕されて警視庁本部留置場に留置されてから、同年11月28日東京拘置所に移監されるまで、実に136日間も代用監獄たる留置場に拘禁されていた。 

 被告人の「供述」は、この代用監獄たる警視庁留置場に留置されていた期間になされた取調べの結果得られたものである。

 被疑者の勾留は監獄においてなされねばならないにもかかわらず(刑訴法64条、75条、209条)、監獄法1条3項は「警察官署に付属する留置場は之を監獄に代用することを得」と定めた。    

 かかる代用監獄の制度及びその下での被疑者取調べは国際人権法に違反し、その結果得られた証拠は証拠能力を否定されるべきである。


  (1)代用監獄自体の違法

 国際人権B規約9条3項は、

 「刑事上の間責で逮捕又は拘禁されたものは何人も、速やかに裁判官又は司法権の行使を法律によって許された他の官吏に引き渡され、合理的な期間内に裁判を受け又は釈放を受ける権利を有する」

と定める。

 また、あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則(以下「被拘禁者保護原則」という)の原則37も

 「犯罪の嫌疑によって拘禁されたものは、逮捕後すみやかに司法官もしくは法によって定められたその他の官憲の前に引致されなければならない」

旨定める。

 これらの原則は、逮捕された被疑者の身柄を速やかに裁判官のもとに引き渡すべきことを要求しているのであって、裁判官の面前に一度引致すればまた捜査官の手元に身柄を戻すことを許しているものではない。

 その基礎には、逮捕に伴って捜査機関が事実上被疑者の身柄を管理・処遇できる時間を極小にするという考え方があるのである。

 国際刑法学会の1979年第12回大会第三部会決議(ハンブルグ決議)でも、7条e項で

 「何人も逮捕もしくは身体拘束を受けた場合はすみやかに裁判官ないしそれに代わる司法官憲のもとに引致され、被疑事実を告知されなければならない。

 右司法官憲のもとに出頭後においては被疑者は捜査官憲の拘束下に戻されてはならず、通常の刑務職員の拘束下に置かれなければならない。」

旨明瞭に定められた。

 憲法98条の確定した解釈によれば、批准した条約には国内法的効力が認められ、その効力順位は憲法より下位であるが、法律より上位の効力が認められる。

 そして、その実施に何らの措置を要しない条約にあっては、これに違反する下位法規は当然に効力を失うのである。

 したがって国際人権B規約については日本国政府も批准しているから、刑事訴訟法や監獄法などの法規がこれに違反するときは、当然にその効力は失われるのである。

 さらに、批准した条約には当たらない諸決議や宣言であっても、それらは、団際人権B規約の解釈基準、審査基準として意義を有している。

 被拘禁者保護原則は、1988年12月9日の国連第43回総会決議(43/163)として日本国政府を含む全会一致で採択されたものである。

 したがって、裁判官によって勾留された被疑者はもはや捜査官憲の拘束下に戻されてはならないのであって、それを許すことになる監獄法1条3項の代用監獄は、国際人権B規約違反にあたり、許されない。


  (2)代用監獄下での取調べ自体の違法

 国際人権B規約7条は

 「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱若しくは刑罰を受けない」

と規定し、さらに同10条1項はそれを被拘禁下にある者を名宛人として、

 「自由を奪われたすべての者は人道的にかつ人間固有の尊厳を尊重して、取り扱われる。」

と規定した。

 被拘禁者保護原則の原則6も同様の規定である。

 そして、国際法曹委員会は、警察拘禁下の被疑者取調べが誘導や拷問による自白強制の温床となることを憂慮して、

 「逮捕した被疑者の身柄を裁判官に引致した後は、取調べを一切許さない。

 仮に許すとしても裁判官だけが行なう」

との見解を表明した。

 この見解は、被拘禁者保護原則の原則4

 「あらゆる形態の拘禁又は収監並びにあらゆる形態の拘禁又は収監下にある人々の人権に影響を及ぼすすべての措置は司法官もしくはその他の官憲の命令によりあるいはその効果的なコントロールの対象としてなされねばならない」

原則21の1項

 「自白させ、その他自己に罪を帰せ、又は他人に不利な証言をさせることを強制するため、拘禁された者又は受刑者の状態を不当に利用することは禁止される」

として結実した。

 したがって、代用監獄に勾留されている者を捜査官が取り調べること自体も国際人権B規約違反であって、許されない。

 以上述べてきた通り、代用監獄下でなされた被告人の自白はすべて国際人権B規約に違反して採取されたものであるから、証拠能力を有しないと言わねばならない。


  2.被告人の自白に任意性はない

  (1)取調べの実態

 被告人は、昭和60年7月16日に財産犯による別件で逮捕されて同年11月28日東京拘置所に移監されるまで、実に136日間も代用監獄たる留置場に拘禁されていた。

 被告人が自白したとされるのは、逮捕のときから大宰府山中での佐藤殺害の自白をする8月29日までで45日間、博多城山ホテルでの佐藤殺害を初めて自白したとされる9月1日まででも48日間にも及ぶ拘禁の後であった(これが別件である財産犯を利用しての違憲違法な逮捕・拘禁であることは、既に述べたとおりである)。

 被告人は、逮捕されてから佐藤殺害の事実で起訴されるまでの間、9月10日の1日を除いて連日の取調べを受け、1日の取調べ時間は別表4取調べ経過一覧表のごとく、平均して10時間を越えており、取調べ終了時刻が午前○時に及ぶことも7回にわたり、午後11時を過ぎることが38回、ほとんど午後10時を越えて取調べが行われていた。

 被告人の記憶では、取調べを終了して留置場に戻されるのが毎晩12時頃であった。

 捜査官による取調べの方法や留置場での生活状態については、被告人が平成2年6月4日付上申書 (原審弁41号証)に克明に記載されている。

 それは実際に体験した者でなければ語れない、迫真性・具体性・現実性に満ちている。

 被告人の「自白」とは大違いである。

 被告人は、2坪ばかりの取調室の折畳み椅子に、何時間でも取調官の満足する自白をするまで座らされた。

 取調官は、4人がかりで、際限なく大声で怒号・罵声を浴びせながら、虚構を交えて恫喝し、弱

みに付け込み、理詰めで追及し、あるいは情に訴え、親切顔をし、利益で誘導し、術策・偽計を用い、弁護人を中傷し、またマスコミ操作をし、同房者に密告させるなど、あらゆる取調べの技術を駆使して取調を継続する。

 その他に検察官の取調べがなされる。

 検察官の取調べと言っても、検察庁の庁舎で行われるのではなく、警視庁に出向いてなされる。

 したがって、被告人は連日警視庁の取調室の中に閉じ込められたまま、休息の時間も与えられず、トイレヘ行くのもままならず、用便も警察官に監視されていた。

 取調べの一端をここに再現する。


「ウジ虫野郎」

「人殺し野郎」

「盗っ人野郎」

という激しい言葉が絶えず刑事の口をついて出るとともに、私は頭をこずかれた。

「助平男」

「嘘つき野郎」

「大詐欺師」

 刑事たちの怒鳴る悪口雑言は、これまで私が面と向かって言われたことのない汚い言葉ばかりである。

 私には、こんな悪罵を投げつけられるだけでも衝撃だったが、私の耳の間近で何十回となく繰り返されるうちに、私はすっかり萎縮してしまった。

 あまりの大声で、鼓膜が破れるのではないかと心配するほどに痛い。

 しかし私が顔をしかめたり、そむけたりすれば、すぐに髪をつかんで引き戻され、今度はわざと耳に口を当てて怒鳴りつけられる。

 折り畳み椅子に座り続けた腰の痛みに耐えられずに身体を動かしたりすれば、

「姿勢を正せ」

と言われ、顔を伏せたり目をつむったりして、少しでも反抗の態度をとれば、すぐに

「正面を向いて眼を合わせろ」

と大声で言われた。(中略)

 刑事達のあまりに酷い悪口に耐えかねて抗議でもしようものなら、今度は私の髪をつかんで、額を机に打ちつけて、生意気だと息まく。

 壁との間に私を挟んだままで机を力いっぱい押しつける。

 3人の刑事は互いに交替で調べ室の外に出ては休憩し、再び体調を整えて登場しては罵倒を続け、それは私が気力も尽きて思考も働かなくなるまで何時間も繰り返された。

 2回目の別件逮捕がなされた以降は、刑事は1名増員されて計4名になったから、彼等の休息のローテーションは余裕ができたが、その分だけ私に対する調べが厳しくなったということになる。

 検事の取調では、さすがにヤクザが脅かすような真似までして自分を落とすことができぬと見えて、刑事達の言うような聞くに耐えぬ悪口や、鼓膜も破れんばかりの大声もなく、私の体に手を触れることもなかった。

 直接的に苦痛を与えるのではなくて、その代わりにやり方が陰湿になる

 たとえば、それまで丸めて机を叩いていたノートを突然に放り投げて、

「あれを拾ってこい」

と命令したり、私の態度が気にいらぬと、

「そのまま起立していろ」

と命じて、私は相当時間、検事と睨み合っていることもあった。(後略)(原審弁41号証68~71頁)


 その他虫歯の歯科治療まで自白の材料とされた。

 取調べ終了後も、看守が留置場内の被告人のあらゆる行動を監視し、記録につける。

 食事は取調室で、取調べの都合によって不定期に許されただけだった。

 逮捕されてから2週間は、1日30分間の運動も認められなかった。

 弁護人接見以外は禁止され、本や新聞や手紙などを読み書きすること一切が禁止された。

 まさに激しい肉体的・精神的苦痛を与え、人間の尊厳を侵害する取調・拘禁であった。

 日本国政府は、国際人権規約委員会に対して提出した「市民的及び政治的権利に関する際規約第40条1bに基づく第三報告」の中で、代用監獄問題に触れて、

   ・被留置者の健康保持のために、30分間、被留置者が希望する場合には時問を越えて、戸外に設けられた運動場で自由に運動できる時間が設けられている

   ・取調の時間については、執務時間(通常30分から午後15分まで)中に行うように努めており、執務時間外に取り調なければならない事情がある場合でも、留置場の日課時限にお    いて就寝時刻が定められている趣旨にもとることのないようにしている

と報告している

 また、警察の被疑者留置規則実施要領には、朝食は午前時、昼食は正午、夕食は午後時と定められ、留置人が警察内にいるときは給食時間帯に留置場内に入場させ又は調室等で喫食させなければならず、就寝時刻は午後時と定められている。

 しかし、被告人については、いずれも遵守されていない

 政府が条約に規定された報告義務に基づいて対外的に行った報告に明白に違反しているのである

 はたしてこのように苛酷で長期長時間にわたる取調の結果得られた自白に任意性があると言えるのか


 先に国際人権規約7条

「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱若しくは刑罰を受けない。」

同10条1

「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間固有の尊厳を尊重して、取り扱われる

を引用したが、被告人に対して加られた取調がよもや「人道的でかつ人間固有の尊厳を尊重した」取扱であるなどと言う者はいないであろう

 人権際連盟ジョデル事務総長らが日本の代用監獄問題及び接見交通権の問題を調査した「1989月バーカー・ジョデル報告」は、わがの身柄拘束下の被疑者取調の現状が、 「拷問や残虐、非人道的、あるいは品位を傷つけるような取扱を受けない権利」を保障した国際人権規約7条に違反すると指摘した。

 その中で、長時間の取調べ自体が肉体的拷問であるとともに、自白しなければ留置が長引くとか自白するまで取調べは止めないと取調官がいうのは心理的虐待に当たると指摘し、代用監獄下の取調べ中に引き出された自白の全ては強制されたと推定されると考えなければならないと指摘した。

 また、判例は、勾留されている被疑者が捜査官から取り調べられる際に両手錠を施されているときは、その心身に何らかの圧迫を受け、任意の供述は期待できないものと推定されるといっている (最高裁昭和38年9月13日判決)。

 本件のように長期間・長時間にわたる右のような取調べによって被疑者が心身に受ける圧迫は、短時間の両手錠による圧迫の比ではないことは明白である.

 したがって、被告人の捜査段階の由白は、強制・拷問・不当に長く拘禁された後の自白であることは明白であるから、憲法38条2項に照らし、証拠とすることができないものである。


  (2)原判決の検討

 しかるに、原判決は、次の通り判示して任意性を肯定した。

 「被告人は、昭和60年7月16日に逮捕され、同年11月14日の第五次追起訴に至るまでの間、身柄拘束下で取調べを受けたものであるが、もとより右取調べの際、被告人に対し、所論のいうような暴行脅迫等が加えられた形跡は窺われないうえ、その間、取調べがしばしば深夜にまで及んだこともあったことが認められるけれども、右期間中被告人の身柄の戒護に当たった当審証人加藤栄三の供述によれば、被告人は、「夜の商売をしていたから夜は強い。心配しないでください。」 と言って特にそれを苦にする様子がなく、これに対し取調官の側でも、調べが遅くまでかかったときには翌日の調べの開始時刻を遅らせるなどの配慮をしていたことが認められるから、取調方法の違法をいう論旨は採用できない。

 加えて、被告人が公判供述に代えて提出した上申書を含む被告人の当審公判供述によれば、被告人は、佐藤殺害事実に関する捜査官の取調べの際、捜査官が把握している事実関係の範囲、程度に強い関心を寄せ、それを慎重に探りながら冷静かつ意図的に、周到に計算したうえで供述していることが認められるから、そのようにしてされた供述に任意性がないなど到底いえない。」(22丁裏~23裏)


 原判決の原審加藤証人の供述についての認定は、尋問の次の箇所からとられたものである。

検察官

  「被告人は警察の取調べの段階で、自分は警察官から髪を掴んで壁に打ち付けられたとか、そのほか乱暴されたということを言っているんですけれども、そのような事実がありましたか」

   「ありません」

  「夜遅くまで調べられたということも言っているのですが、そういうことはありましたか」

   「ありました」

  「夜遅くまで調べをしたというのは、何か理由があったのでしょうか」

   「はい。事件が重大事件で、また否認でもあるし、やはり調べの区切りを付けるためにも、遅くなったことはありました」

  「被告人自身、夜遅くまで調べられることについて、不満を訴えていたということがありませんか」

   「ありません」

  「あるいは被告人が、その取調の時間のことで、何か言っていたということがありますか」

   「はい。常々、もともと夜の商売をやっていたんで、夜には強いと。しかもこの事件は私のことだから、心配しないでくれと言っていました」

  「そうすると、夜遅くまで調べられても構わないというふうな態度でおったわけですか」

   「そうです」

  「捜査官のほうで、被告人の取調べの時間について、何か配慮していたという事柄がありますか」

   「はい。翌朝の調べについては、ゆとりある時間に調べを開始しておりリました」

                         (原審第10回公判速記録2丁裏~3丁裏)

 検察官の主尋問に対するこのような概略的な証言だけで取調べの実態に対する心証をとったというのであるから、驚きである。

 加藤証言には、先にあげた被告人の上申書の具体性・迫真性に比し、うるものなど何もない。

 深夜まで繰り返される苛酷な取調べに対して、「もともと夜の商売をやっていたんで、夜には強いと、しかもこの事件は私のことだから、心配しないでくれと言っていた」という捜査官の証言をそのまま認定しているのであるから、人権感覚の欠如も甚だしく、非常識というにも程がある。

 また、なるほど被告人は、自分のアリバイを証明する意図で、虚実を織りまぜながら九州へ行った話をし、その裏付け捜査を求める過程で、不利益供述を一見任意にしたかのように見える。

 しかし、全体の捜査の流れから見れば、冷静でも、慎重・周到に計算して供述したものでもなく、反復継続した取調官の恫喝に屈し、あるいは術策にはめられてなした任意性のないものである。

 このことは、結局、捜査官によりそのアリバイ主張を逆に利用され、虚偽の「自白」に追い込まれたことからも、明らかである。

 冷静・慎重・周到に計算したのであれば、決して何も供述しなかったであろう。

 冷静でも何でもないものが、あたかも冷静に計算しているように認識されていたのだとしたら、それこそ正常な心理状態ではなかったことを端的に示しているのである。

 しかしながら、原判決は被告人の上申書を有罪の予断を持って都合の良い部分だけをつまみ喰いしたのである。

 このように原判決の任意性に関する判断は、左記に掲げたとおりの簡単な薄っペらなものだけで、弁護人の取調の実情についての原審弁論には何ら答えようとはせず、取調べについての全体的な視点が全く欠けているものであった。

 しかも、被告人が上申書を提出して取調べの実情を詳細に供述し、自白が任意になされたものでない疑いのあることを指摘しているのであるから、検察官において任意性のあることが合理的な疑いを容れない程度にまで証明されない限り、証拠能力は排除されなければならない。

 それにもかかわらず、原判決が何ら理由らしい理由を示さずに自白の任意性を肯定しているのは、明らかに憲法38条2項に違反している。


  (3)取調過程の可視化

 自白の任意性を検討するには、捜査段階における被告人の取調べ過程に照らした吟味が必要不可欠である。

 とりわけ本件では、被告人は財産犯による別件逮捕勾留を利用した長期間長時間にわたる取調べの結果自白するに至ったものであり、なおかつ捜査段階での供述も変転動揺極まりないものであるから、取調べ過程全体の可視化は他の事実にもまして必要不可欠である。

 そのためには、まず第一に、被告人が自白したとされる取調べ過程を可視化しなければならない。

 即ち、取調べ過程の全体にわたって、何日の、何時から何時まで、誰と誰によって、何の点について取調べがなされ、被告人がどのような供述をしていたのか、それにあわせて捜査はどのように進展して何が判明していたのかが明らかにされなければならない。

 そのためには、留置人出入簿、犯罪捜査規範によって義務づけられた捜査メモ、取調べ状況報告書、被告人の供述調書の全てが開示され、かつ検察官から取調べ経過一覧表が作成提出されなければならない。

 近時の裁判実務においても、自白の任意性に関する事実認定を適正にするためには取調べ過程の可視化が必要不可欠であるとの見地から、その一手段として検察官から取調べ経過一覧表を作成提出させる取扱いがなされているところである。

 ところが、留置人出入簿は既に廃棄されており、公判廷に提出された取調べ状況報告書は被告人が自白したとされる時期に限定した、断片的なもののみであって、その余のものは存在するにもかかわらず開示提出されていない(弁護人の検察官との面接の中でも、開示提出されていない報告書が多数あることの確認は得ている)

 もっとも、本件では取調官の一人である加藤刑事が査手帳(原審検31号証)や取調日誌(原審検35号証)を保存していたため、その記載から取調時間だけは割り出すことができた(しかし、やはり何時、どのような取調が行われていたかが判明しないため、違憲違法な別件逮捕勾留であるかどうかの判断すら困難な作業を伴うことは、項で見た通りである)

 原審でも、かねてから弁護人から検察官に対し、取調状況報告書全部の開示を求めていたが、一審段階で開示されたもの以上は開示されなかった

 どうか裁判所に置かれては、取調状況報告書全部の開示を積極的に求められることをお願いする次第である

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